悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました
『この令嬢がヤバイフェア』
廃城のテラスで二人きりのお茶会中、十回目の求婚をしたら魔王が言った。
「女性から求婚するのは、令嬢として失格ではないのか?」
頬杖を突いたクロードがアイリーンの手作りクッキーを手に取る様子はない。何も盛っていないとわざわざ申告するのもつまらないので、アイリーンは何も言わずまず紅茶を飲んだ。
「クロード様。貴族の令嬢は普段から心がけていることがたくさんあります。たとえば、食器に口紅をつけない」
紅茶のカップを見せる。口をつける前に軽く拭き取り、口紅を残さないのが礼儀だ。
「ダンスに気の利いた会話、相手と場に合わせた化粧。でもそれらはすべて意中の男性をしとめるための武器です。令嬢達はその目的を見失っていけません」
目線を上げたクロードに、狩人の瞳で薄く微笑み返す。
「今日の口紅の色が気になります?」
「何故そう思う?」
「ずっと見てらっしゃいますわ。どんな色がお好き? 言ってくだされば変えますわ」
「僕を愛してもいないくせに?」
それを気にしだしたら、落ちる日も近い。
「ええ。クロード様のお好みの色に」
クロードがふと身を乗り出し、親指でアイリーンの唇をゆっくりなぞった。
「では、淡いピンクの口紅で」
そしてクッキーを一枚取り、立ち上がる。
「楽しみにしている。また明日」
「――ええ、また明日」
でも、明日の口紅の色は赤だ。
(意中の男性を落とす前に落とされては駄目)
それが、男性には言えない令嬢の本当の心得。
言うとおりに口紅の色を変えて期待するのは言語道断。同じ失敗はしない。
あなたを愛に跪かせるその日まで、駆け引きは続くのだ。
2018年プライベッター初出