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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました

『ポンパ巻き貝ハーフアップ梅雨の戦い・前編』

 魔王様のご機嫌に関係なく、雨が降る季節になった。  鏡台の前に櫛を置いて、アイリーンは嘆息する。するとソファに座り、執務前の休憩、食後の珈琲を飲んでいたクロードがまばたいた。 「どうした、アイリーン。何か気鬱なことでも?」 「いえ、髪が……こう、なんていえばよろしいのか……ぼわっとしてしまうのが気になって気になって」  レイチェルたち侍女達とも毎朝悪戦苦闘するのだが、どうしても今時期は湿気で髪が膨らみがちだ。 「結んでしまえばいいんですけれども……」  髪先をいじりながら、アイリーンは嘆息する。立ちあがったクロードがわざわざ背後から小首を傾げて覗きこんできた。さらりと湿気も何も関係ない、艶やかな髪が目の前に流れる。 「髪型のひとつやふたつ気にせずとも、君はいつも可愛い」  甘くささやく夫に、アイリーンは笑顔を返す。 「クロード様に言われると腹が立つので控えていただけますか」 「……手厳しいな」 「こんなつやつやの髪をなさって、そんなことをおっしゃるからです。どれだけわたくしが苦労してると思いますの」  ぐいぐいと遠慮なくクロードの髪をひっぱると、クロードが顔をしかめた。 「わかった、配慮に欠ける発言だった」 「認められても腹が立ちますわね」 「どうしろと」 「どうもこうもありません」  羨んだところでクロードの雨にも風にも湿気にも負けない髪が手に入るわけではない――と言おうとして、アイリーンは口をつぐむ。  いいことを思いついた。 「……なんなんですか、我が主。その髪型」 「よくわからないが今日一日この髪型でいろと言われた」  頭の上に巻き貝のようにねじり上げて作られた髪型が重い。ぐるぐる渦をまいた髪の間に花飾りまで散りばめられて、なんだか肩が凝る。 「髪が爆発する苦労を知れと言われた」 「なんかそれ、違いません?」 「僕もそう思うんだが、妻がご機嫌になったのでまあいいかと」  キースが呆れて雨の降る窓の外を見る。 「今日も平和でいいですねえ」 「まったくだ」 2020年Twitter初出