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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中

『名前の呼び方、ひとつだけ』

「ジーーールジルジルジルジルジルジルージーールーー!」 「何回も呼ばなくても聞こえてます、陛下。なんですか?」  正面に立つと、ハディスがジルの目線の高さに合わせてしゃがんだ。ジルが近づいてハディスがとる行動は、しゃがむか抱きあげるかの二択だ。  そしてしゃがむときは、話をするとき。だんだんわかってきた。 「僕の紫水晶」  懐かしいというには聞き覚えのある呼びかけに、ジルはきょとんとする。 「僕のお嫁さん」 「……はい、そうですが」 「僕の婚約者」 「……対外的にはそうです」 「竜妃って呼ばれたりする?」 「……カミラとかジークには、たまに。あとはラーヴェ様が」 「紫水晶は捨てがたいな。頑張って考えたから」 「……はい?」 「でも、ジル」  かみしめるように呼んでから、ハディスが破顔した。 「うん。ジル。ジル。やっぱり名前がいちばんだ。呼べるんだから。ジルジルジルジーールジルジルジル」 「さっきからなんなんですかいったい!?」 「よし決めた!」  今度はいきなり抱きあげられた。わけがわからないままジルに、ハディスが嬉しそうに決める。 「僕が皇帝のときは、紫水晶って呼ぶ」 「は、はあ……」 「でも、ふたりっきりのときはジルって呼ぶ。どう!?」  なるほど、名前の呼び方を考えていたのか。 (そんな使い分けして、意味があるんだろうか……)  だが、ジルの肩に顔を埋めたハディスはご機嫌だ。 「君の名前を呼ぶのは、とくべつな時間がいい」  ぐっと何か胸にきたジルは、ごまかすようにちょうど顔の真横にあるハディスの頭をぐしゃぐしゃになでる。 「わっ何するんだジル」 「陛下のばか! 名前なんて普通に呼べばいいんですよ、ふつーに!」 「なんで!?」 「ご自分で考えてください! 当たり前のことなんだから!」  するりとハディスの腕から抜け出たジルは、怒ってるそぶりで歩き出す。そうするとハディスがうしろからまた「ジールジルジル」とか呼びながらついてきた。  彼にとってはとくべつで、ジルにとっては当然にしなければならない、そんなひとときである。 サイト描き下ろし