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やり竜
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No.235
『金蒼VS蒼金・級長編』
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帝城を抜け出すのはルティーヤの得意技である。とはいえそろそろ終わり時だなと思っていた。帝城を抜け出して会っている同級生も自分も、新しくラーデアにできる士官学校の編入準備を始めるからである。
「俺は夏の終わりにはラーデアに引っ越す予定だよ。お前は?」
さっき公園で買ったばかりのパイの包みを開きながらノインが問う。すでに半分以上たいらげているルティーヤは、ぺろりと口の周りについたジャムをなめて答えた。
「僕は今後の状況次第かな。あとはあの嫌みったらしい兄上たち次第」
「ジル先生もハディス先生もお前を送り出してくれるよ」
「どうだかね。そもそもこの状況で開校できるのかっつーの」
クレイトスとの会談の行方次第では開戦だ。その会談も現在進行形で竜妃が行方不明になったり、馬鹿兄がこじらせを発症してぐちゃぐちゃにしようとしている。
「そういえば、ちょっと前に、副級長からみんなバイトするって手紙がきてたよ。ロジャー先生が引率らしい」
ノインが噴水広場に足を向けながら、話題を変えた。
「お前のところの副級長たちも一緒だって」
「は? なんでその組み合わせ? 水と油だろ」
エリート金竜学級の真面目な優等生女子と、落ちこぼれ蒼竜学級の不真面目でさぼり癖の強い男子だ。いったいどうしたら同じバイトをするなんて話になるのか。
「詳細が書いてなかったから気になってるんだ。お前のところに何かきてないか?」
号外、という大声と一緒に、新聞売りが噴水広場を新聞を撒き散らしながら回っている。
「検閲されるから送ってくるなって言ってある。ロジャー先生、行方知れずじゃ――っぷ」
通りすぎさまに投げられた新聞が、運悪くルティーヤの顔を直撃した。なんだよ、と悪態をつきながらルティーヤは新聞をはぎ、見出しに目を通しながら最後のパイを口に含み、噴き出した。
「ルティーヤ。行儀が悪い」
うるさい、と返したいが言葉にならない。ただ、咽せる原因になった新聞の見出しが見えるよう、ノインに突き出す。数秒、間があって、ノインも咽せた。
「……っお前もひとのこと言えないだろ!」
「だっ……だって、それ……っ!」
――『金蒼の竜翼団』アルカから女王を救出!! 次々拠点を壊滅させる義賊集団、その正体は子どもたち!?
「バイトってこれかよ! 何やってんだあいつら!?」
「……ジル先生って、今、行方不明なんだっけ?」
「……僕は知らないからな。なんにも知らないからな! 関係ないぞ!」
「団長はお前なのかな、やっぱり」
「冗談じゃない、やるならお前だろ!」
「もし俺なら、最終的にはハディス先生ってことで」
怒鳴ったルティーヤにノインがさわやかな笑顔で権力にぶん投げた。
「お前、ほんと最近、手段選ばなくなってきたな……」
「でないとやってられないよ。……でも、金蒼か……蒼金よりはいいかな」
「は?」
かちんときて、ルティーヤは新聞を握り潰す。
「キンソウより、アオガネのほうが響きいいだろ。この点はやり直しだよ」
「主導権を握ってるほうが先に名乗るのが世の常だよ」
「は~~~~? 義賊って時点で世の常からはずれてんだよ。蒼い竜はいないんだから蒼金のほうが意味が通るし、存在しないってかっこいいじゃん!」
「じゃあ公的には金蒼で、裏では蒼金を名乗るのはどうかな」
「功績だけ掠め取ってく気か、このクソエリート!」
「じゃあじゃんけんで決めようよ。じゃんけん」
握りこぶしの勢いで出してしまったルティーヤの形はグーで、ノインの手はパーだ。くっそおおおとルティーヤはしゃがみ込もうとして、気づく。
地面が真っ暗だった。さっきまで晴れていたのに――ばっと、帝都の空を仰ぎ見た。
空が一面、竜の集団の影に覆われている。それ自体、珍しくはない。
その竜たちが全員、黒い靄に覆われていなければ。
「――ルティーヤ、あれ、こないだお前が言ってた……」
竜たちはまっすぐ、どこかを目指して飛んでいく。通り雨のようにすぎていった影に、周囲がざわめき始めていた。
「なんか今の、おかしくなかったか? 逆光のせいかな」
「馬鹿だな、知らないのかお前。あれはな、最近発見された新種の竜って話だ」
「へえ、じゃあラーヴェ様の新しいご加護ってやつか?」
男はありがたや、とおどけて拝んでみせている。
「――ノイン、聞いたことは?」
「珍しい竜の噂ならいつのことだけどね。でもあれを新種ってのは初めて聞いた」
誰かが故意に噂を流している。竜の花冠祭で口止めをしたのが仇になったのか。
「僕、城に戻る」
「俺は噂の大元、当たってみるよ。何かわかったら連絡する」
ヴィッセルならもう把握しているかもしれないが、情報は多いほうがいい。
竜神ラーヴェの実在を、力を、心の底から信じている者は少ない。でなければ竜帝の兄はあんなに苦労しなかっただろう。
でも、まるで水や空気のように、根付いているのだ。竜に関して何かあれば竜神による加護と誰もが疑わない――それがラーヴェでの信仰心だ。
なのに、もし、あの竜が竜神ラーヴェに従わないなんて知られたら。
ライカであの兄は、竜に関する理を書き換えてみせた。心配しすぎかもしれない。けれど、嫌な予感がした。
竜神の威光が翳れば、竜帝はもうただの人間だ。いつ、人間から追い落とされたっておかしくない。
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#やり竜
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小説
2025/8/13
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「俺は夏の終わりにはラーデアに引っ越す予定だよ。お前は?」
さっき公園で買ったばかりのパイの包みを開きながらノインが問う。すでに半分以上たいらげているルティーヤは、ぺろりと口の周りについたジャムをなめて答えた。
「僕は今後の状況次第かな。あとはあの嫌みったらしい兄上たち次第」
「ジル先生もハディス先生もお前を送り出してくれるよ」
「どうだかね。そもそもこの状況で開校できるのかっつーの」
クレイトスとの会談の行方次第では開戦だ。その会談も現在進行形で竜妃が行方不明になったり、馬鹿兄がこじらせを発症してぐちゃぐちゃにしようとしている。
「そういえば、ちょっと前に、副級長からみんなバイトするって手紙がきてたよ。ロジャー先生が引率らしい」
ノインが噴水広場に足を向けながら、話題を変えた。
「お前のところの副級長たちも一緒だって」
「は? なんでその組み合わせ? 水と油だろ」
エリート金竜学級の真面目な優等生女子と、落ちこぼれ蒼竜学級の不真面目でさぼり癖の強い男子だ。いったいどうしたら同じバイトをするなんて話になるのか。
「詳細が書いてなかったから気になってるんだ。お前のところに何かきてないか?」
号外、という大声と一緒に、新聞売りが噴水広場を新聞を撒き散らしながら回っている。
「検閲されるから送ってくるなって言ってある。ロジャー先生、行方知れずじゃ――っぷ」
通りすぎさまに投げられた新聞が、運悪くルティーヤの顔を直撃した。なんだよ、と悪態をつきながらルティーヤは新聞をはぎ、見出しに目を通しながら最後のパイを口に含み、噴き出した。
「ルティーヤ。行儀が悪い」
うるさい、と返したいが言葉にならない。ただ、咽せる原因になった新聞の見出しが見えるよう、ノインに突き出す。数秒、間があって、ノインも咽せた。
「……っお前もひとのこと言えないだろ!」
「だっ……だって、それ……っ!」
――『金蒼の竜翼団』アルカから女王を救出!! 次々拠点を壊滅させる義賊集団、その正体は子どもたち!?
「バイトってこれかよ! 何やってんだあいつら!?」
「……ジル先生って、今、行方不明なんだっけ?」
「……僕は知らないからな。なんにも知らないからな! 関係ないぞ!」
「団長はお前なのかな、やっぱり」
「冗談じゃない、やるならお前だろ!」
「もし俺なら、最終的にはハディス先生ってことで」
怒鳴ったルティーヤにノインがさわやかな笑顔で権力にぶん投げた。
「お前、ほんと最近、手段選ばなくなってきたな……」
「でないとやってられないよ。……でも、金蒼か……蒼金よりはいいかな」
「は?」
かちんときて、ルティーヤは新聞を握り潰す。
「キンソウより、アオガネのほうが響きいいだろ。この点はやり直しだよ」
「主導権を握ってるほうが先に名乗るのが世の常だよ」
「は~~~~? 義賊って時点で世の常からはずれてんだよ。蒼い竜はいないんだから蒼金のほうが意味が通るし、存在しないってかっこいいじゃん!」
「じゃあ公的には金蒼で、裏では蒼金を名乗るのはどうかな」
「功績だけ掠め取ってく気か、このクソエリート!」
「じゃあじゃんけんで決めようよ。じゃんけん」
握りこぶしの勢いで出してしまったルティーヤの形はグーで、ノインの手はパーだ。くっそおおおとルティーヤはしゃがみ込もうとして、気づく。
地面が真っ暗だった。さっきまで晴れていたのに――ばっと、帝都の空を仰ぎ見た。
空が一面、竜の集団の影に覆われている。それ自体、珍しくはない。
その竜たちが全員、黒い靄に覆われていなければ。
「――ルティーヤ、あれ、こないだお前が言ってた……」
竜たちはまっすぐ、どこかを目指して飛んでいく。通り雨のようにすぎていった影に、周囲がざわめき始めていた。
「なんか今の、おかしくなかったか? 逆光のせいかな」
「馬鹿だな、知らないのかお前。あれはな、最近発見された新種の竜って話だ」
「へえ、じゃあラーヴェ様の新しいご加護ってやつか?」
男はありがたや、とおどけて拝んでみせている。
「――ノイン、聞いたことは?」
「珍しい竜の噂ならいつのことだけどね。でもあれを新種ってのは初めて聞いた」
誰かが故意に噂を流している。竜の花冠祭で口止めをしたのが仇になったのか。
「僕、城に戻る」
「俺は噂の大元、当たってみるよ。何かわかったら連絡する」
ヴィッセルならもう把握しているかもしれないが、情報は多いほうがいい。
竜神ラーヴェの実在を、力を、心の底から信じている者は少ない。でなければ竜帝の兄はあんなに苦労しなかっただろう。
でも、まるで水や空気のように、根付いているのだ。竜に関して何かあれば竜神による加護と誰もが疑わない――それがラーヴェでの信仰心だ。
なのに、もし、あの竜が竜神ラーヴェに従わないなんて知られたら。
ライカであの兄は、竜に関する理を書き換えてみせた。心配しすぎかもしれない。けれど、嫌な予感がした。
竜神の威光が翳れば、竜帝はもうただの人間だ。いつ、人間から追い落とされたっておかしくない。
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