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No.44
『魔王と竜帝でチョコを作れと言われたので』
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「クロスオーバーはこの間限りじゃなかったのか」
「今度はバレンタイン企画だそうだよ。僕と君で一緒にバレンタインのチョコを作ってみてほしいってリクエストがあったらしい」
三角巾にきっちり髪を入れてまとめ、エプロンをつけて、ロリコンもといハディスが答える。
「君は作ったことないだろう、チョコ。だから僕が君に作り方を教えるよ」
従者に三角巾とエプロンをつけられ髪もひとまとめにさせられて、突然厨房に放りこまれたクロードは、眉をひそめた。
「君が、僕に?」
「大丈夫だ、そんな顔しなくても。ジルが僕に頑張ってって言ってくれたから、ちゃんと食べられるものを教えるよ。それに、僕、嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「こんなふうに誰かと一緒に作るなんて、友達みたいじゃないか」
にこにこするハディスに、クロードは胡乱な眼差しを向ける。
魔王の自分が言えた義理ではないが、すさまじく胡散臭い。
(バアルと作るほうがまだマシだ)
とついうっかり思ってしまったのも悔しいので、そうかと頷くだけにとどめる。
「まあ、頼む。アイリーンに変なものを食べさせるわけにはいかない」
「うん、まかせてくれ。ということで、君の材料はこれ」
そっとハディスが床から木箱を取り出した。中から出てきたのは包装されたチョコレートだった。板チョコだ。
焦げ茶の包装紙部分には『m●iji』と書いてある。
「……」
「適当なサイズに折って、ボウルに入れて、違うボウルに熱湯を入れて、そこにチョコの入ったボウルを浮かせて、油と分離しないようゆっくりとかして、それをそこにある好きな型に入れて、冷蔵庫に冷やしておわり。食べられるものはできる」
「…………」
「最終手段としては、これをラッピングし直して渡せばいいと思う。じゃあ頑張って」
「実は教える気がまったくないな?」
真顔で問うと、ふとハディスが目元を緩めた。
「僕、こういう台詞を他人に言える日がくると思ってなかったんだけど――君は顔がいいんだからチョコなんかどうでもよくない?」
ハディスの得体の知れない笑みにつられたように、クロードの口角もあがる。
「言われ慣れた台詞だが、君に言われるとすさまじく腹が立つな。なんというか、お前が言えたことかという気分になった」
「僕には君ほどの卑猥さはないと思う」
どこかで派手に雷が落ちたが、ハディスは気にする素振りもなくにこにこ笑ったままだ。
この男、絶対ろくでもない。
確信したクロードは、できるだけさわやかに問いかけた。
「ならあれか。君は可愛い系でも狙ってるのか、その全力で胡散臭い笑顔で」
「心外だな。僕はただのイケメンだよ」
「さすが、通報皇帝だの嫁だの中身が幼女だの言われているキャラは言うことが違うな」
「ははは、ヒロイン扱いされてヒーローに戻れない君からの忠告、痛み入るよ。サービスショットを求められて大変だね」
「三分クッ●ングのシルエットをつけたら笑いを取れそうな君には負ける」
「そんな話聞いてないよ、やる予定がどこに!?」
「そして最終的には必ず君も全裸にさせられるんだ……! 僕なんてコミカライズでも全裸になったんだぞ!」
「――この話、やめないか?」
眉をひそめたハディスに、クロードも遠い目になる。
「そうだな」
「真面目な話、君はほとんど料理をしたことがないんだろう。なら、市販のチョコを湯煎して溶かすだけでも立派な手作りだ。テンパリングだって初めてだろう? 大半の女の子の手作りだって、市販のチョコを使ってアレンジしてるんだし」
その言葉に嘘はなさそうだったので、クロードは『m●iji』と書かれた板チョコを手に取って嘆息する。
「まあ、それもそうか。じゃあ君も使うのか、これ?」
「僕はカカオから作るよ? お嫁さんにあげるんだぞ。手抜きなんてできない」
「……」
「再来年くらいは僕が栽培したカカオ豆で作ったチョコをジルにあげたい」
それはさすがにちょっと引くと思ったが、ハディスは真剣である。
馬鹿にするにも、ハディスは一回り近く年下なのだ。邪魔するのも大人げないと、クロードは引き下がることにした。
「わかった。頑張るといい。僕とアイリーンはもう身も心も夫婦だ。続編でまた引っかき回されるだろう君達と違って平和な未来しかない」
「なんだ君、知らないのか」
「何をだ?」
「ちょうど今、作者がとりあえずプロットとかいうのを作ろうとして」
なんのなどと愚問は聞かずに、クロードは転移した。
■
熱湯をぶっかけられてチョコ水と化したものを見せられて、アイリーンは方針転換を決意した。
「ジル様。うちのオベロン商会からバレンタイン商品は多数出ておりますわ。そこで選びましょう!」
「やっぱりそうなりますよね……」
「手作りじゃないの?なんていう男性などぶん殴って更生すべきです!」
「でも陛下は本気の手作りを持ってくるから、少しくらいわたしも……」
「なら余計、うちの商品を召し上がっていただくのはいい案ですわよ。ぜひハディス様のご意見も伺いたいですし、ハディス様の今後のお菓子作りも役立てると思いますの!」
「た、確かに。陛下も喜びそう……」
「アイリーン!!」
突如としてわって入った夫の声に、アイリーンは目をまばたく。
本日はバレンタイン企画。メインはヒーローふたりのチョコ作りである。その裏で、アイリーンはバレンタインくらいハディスにチョコを贈りたい、というジルの相談にのっていたのだが。
「どうなさいましたの、クロード様」
「ひょっとして陛下に何かありましたか!?」
「いや違う。違うんだが、逃げようアイリーン」
「はい?」
首をかしげている間に横に抱きあげられた。ジルの前だ。少女のきょとんとした眼差しがいたたまれず、アイリーンは赤くなる。
「ちょっとクロード様! ジル様の前で、はしたない」
「ついうっかりクロスオーバーとか言って、現在進行形で本編があるところと関わったのが間違いだった」
「いったいなんの話ですの。落ち着いて説明してくださいな」
「作者がプロットを作ろうとしているらしい」
「逃げましょう!」
なんのかを聞きたくないアイリーンは即断する。
「ジル様、失礼致しますわね! どうかお幸せに!」
「えっあ、はい……?」
「バレンタインのチョコは買ったほうがよろしいですわよ!」
その忠告だけは忘れずに届ける。頷いたジルにほっとして、アイリーンは夫の転移に身を任せた。
なんだったんだろう。首をかしげたジルの背後から、影が差す。
「陛下!」
「あっちは帰ったのか?」
「みたいです。なんだったんでしょう……?」
「続編が嫌なんじゃないか」
そういうものか。曖昧に頷いたジルを、ハディスが片腕で抱きあげる。
「君は嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないですよ。わたしは陛下をいっぱいしあわせにしなきゃいけないんですから!」
胸をはったジルはたくましいお嫁さんだ。
(だがあの嫌がりよう。相当面倒なことばかりこなしてきたんだろうな……)
そう思うと先が思いやられる。だがハディスは微笑んだ。
「じゃあ僕は頑張って君にチョコレートを作らないとな」
ぱっと顔を輝かせたジルが成長するのにも、続編がいる。
なのでハディスは立ち向かうしかないのだ。
(終)
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#悪ラス
#やり竜
2020年プライベッター初出
バレンタイン企画クロスオーバーSS
小説
2024/4/21
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「今度はバレンタイン企画だそうだよ。僕と君で一緒にバレンタインのチョコを作ってみてほしいってリクエストがあったらしい」
三角巾にきっちり髪を入れてまとめ、エプロンをつけて、ロリコンもといハディスが答える。
「君は作ったことないだろう、チョコ。だから僕が君に作り方を教えるよ」
従者に三角巾とエプロンをつけられ髪もひとまとめにさせられて、突然厨房に放りこまれたクロードは、眉をひそめた。
「君が、僕に?」
「大丈夫だ、そんな顔しなくても。ジルが僕に頑張ってって言ってくれたから、ちゃんと食べられるものを教えるよ。それに、僕、嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「こんなふうに誰かと一緒に作るなんて、友達みたいじゃないか」
にこにこするハディスに、クロードは胡乱な眼差しを向ける。
魔王の自分が言えた義理ではないが、すさまじく胡散臭い。
(バアルと作るほうがまだマシだ)
とついうっかり思ってしまったのも悔しいので、そうかと頷くだけにとどめる。
「まあ、頼む。アイリーンに変なものを食べさせるわけにはいかない」
「うん、まかせてくれ。ということで、君の材料はこれ」
そっとハディスが床から木箱を取り出した。中から出てきたのは包装されたチョコレートだった。板チョコだ。
焦げ茶の包装紙部分には『m●iji』と書いてある。
「……」
「適当なサイズに折って、ボウルに入れて、違うボウルに熱湯を入れて、そこにチョコの入ったボウルを浮かせて、油と分離しないようゆっくりとかして、それをそこにある好きな型に入れて、冷蔵庫に冷やしておわり。食べられるものはできる」
「…………」
「最終手段としては、これをラッピングし直して渡せばいいと思う。じゃあ頑張って」
「実は教える気がまったくないな?」
真顔で問うと、ふとハディスが目元を緩めた。
「僕、こういう台詞を他人に言える日がくると思ってなかったんだけど――君は顔がいいんだからチョコなんかどうでもよくない?」
ハディスの得体の知れない笑みにつられたように、クロードの口角もあがる。
「言われ慣れた台詞だが、君に言われるとすさまじく腹が立つな。なんというか、お前が言えたことかという気分になった」
「僕には君ほどの卑猥さはないと思う」
どこかで派手に雷が落ちたが、ハディスは気にする素振りもなくにこにこ笑ったままだ。
この男、絶対ろくでもない。
確信したクロードは、できるだけさわやかに問いかけた。
「ならあれか。君は可愛い系でも狙ってるのか、その全力で胡散臭い笑顔で」
「心外だな。僕はただのイケメンだよ」
「さすが、通報皇帝だの嫁だの中身が幼女だの言われているキャラは言うことが違うな」
「ははは、ヒロイン扱いされてヒーローに戻れない君からの忠告、痛み入るよ。サービスショットを求められて大変だね」
「三分クッ●ングのシルエットをつけたら笑いを取れそうな君には負ける」
「そんな話聞いてないよ、やる予定がどこに!?」
「そして最終的には必ず君も全裸にさせられるんだ……! 僕なんてコミカライズでも全裸になったんだぞ!」
「――この話、やめないか?」
眉をひそめたハディスに、クロードも遠い目になる。
「そうだな」
「真面目な話、君はほとんど料理をしたことがないんだろう。なら、市販のチョコを湯煎して溶かすだけでも立派な手作りだ。テンパリングだって初めてだろう? 大半の女の子の手作りだって、市販のチョコを使ってアレンジしてるんだし」
その言葉に嘘はなさそうだったので、クロードは『m●iji』と書かれた板チョコを手に取って嘆息する。
「まあ、それもそうか。じゃあ君も使うのか、これ?」
「僕はカカオから作るよ? お嫁さんにあげるんだぞ。手抜きなんてできない」
「……」
「再来年くらいは僕が栽培したカカオ豆で作ったチョコをジルにあげたい」
それはさすがにちょっと引くと思ったが、ハディスは真剣である。
馬鹿にするにも、ハディスは一回り近く年下なのだ。邪魔するのも大人げないと、クロードは引き下がることにした。
「わかった。頑張るといい。僕とアイリーンはもう身も心も夫婦だ。続編でまた引っかき回されるだろう君達と違って平和な未来しかない」
「なんだ君、知らないのか」
「何をだ?」
「ちょうど今、作者がとりあえずプロットとかいうのを作ろうとして」
なんのなどと愚問は聞かずに、クロードは転移した。
■
熱湯をぶっかけられてチョコ水と化したものを見せられて、アイリーンは方針転換を決意した。
「ジル様。うちのオベロン商会からバレンタイン商品は多数出ておりますわ。そこで選びましょう!」
「やっぱりそうなりますよね……」
「手作りじゃないの?なんていう男性などぶん殴って更生すべきです!」
「でも陛下は本気の手作りを持ってくるから、少しくらいわたしも……」
「なら余計、うちの商品を召し上がっていただくのはいい案ですわよ。ぜひハディス様のご意見も伺いたいですし、ハディス様の今後のお菓子作りも役立てると思いますの!」
「た、確かに。陛下も喜びそう……」
「アイリーン!!」
突如としてわって入った夫の声に、アイリーンは目をまばたく。
本日はバレンタイン企画。メインはヒーローふたりのチョコ作りである。その裏で、アイリーンはバレンタインくらいハディスにチョコを贈りたい、というジルの相談にのっていたのだが。
「どうなさいましたの、クロード様」
「ひょっとして陛下に何かありましたか!?」
「いや違う。違うんだが、逃げようアイリーン」
「はい?」
首をかしげている間に横に抱きあげられた。ジルの前だ。少女のきょとんとした眼差しがいたたまれず、アイリーンは赤くなる。
「ちょっとクロード様! ジル様の前で、はしたない」
「ついうっかりクロスオーバーとか言って、現在進行形で本編があるところと関わったのが間違いだった」
「いったいなんの話ですの。落ち着いて説明してくださいな」
「作者がプロットを作ろうとしているらしい」
「逃げましょう!」
なんのかを聞きたくないアイリーンは即断する。
「ジル様、失礼致しますわね! どうかお幸せに!」
「えっあ、はい……?」
「バレンタインのチョコは買ったほうがよろしいですわよ!」
その忠告だけは忘れずに届ける。頷いたジルにほっとして、アイリーンは夫の転移に身を任せた。
なんだったんだろう。首をかしげたジルの背後から、影が差す。
「陛下!」
「あっちは帰ったのか?」
「みたいです。なんだったんでしょう……?」
「続編が嫌なんじゃないか」
そういうものか。曖昧に頷いたジルを、ハディスが片腕で抱きあげる。
「君は嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないですよ。わたしは陛下をいっぱいしあわせにしなきゃいけないんですから!」
胸をはったジルはたくましいお嫁さんだ。
(だがあの嫌がりよう。相当面倒なことばかりこなしてきたんだろうな……)
そう思うと先が思いやられる。だがハディスは微笑んだ。
「じゃあ僕は頑張って君にチョコレートを作らないとな」
ぱっと顔を輝かせたジルが成長するのにも、続編がいる。
なのでハディスは立ち向かうしかないのだ。
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バレンタイン企画クロスオーバーSS