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No.20

『魔王城のハロウィン』2019ver.



 妻が朝の身支度に退室したと思ったら、自分と同じ顔の造りをした神もどきが「とりっくおあとりーと!」とか叫んで寝室に現れたので魔力を叩きこんでやった。

「ひどいクロード、お父さんに乱暴するなんて!」
「母上に鍛えられているだろう、大丈夫だ」
「そういうところグレイス似だよねクロード……まあいいや、あのねお父さんハロウィンのいたずらを考えたんだ!」
「帰れ」
「僕が魔王のコスプレをする!」
「元魔王が魔王のコスプレをしてもただの元魔王だろう、帰れ」
「で、どっちがクロードか当ててもらうっていうのはどう?」

 ぴたりとクロードは寝台の上で、父親を名乗る元魔王をまじまじと見る。
 そっくりクロードと同じ顔で、ルシェルがにんまりと笑い返した。



「少し目を離した隙に今度は分裂したんですか、我が主」

 さっそくうきうきで出迎えた一人目は、部屋に入るなりクロードに向けてそう言った。
 クロードはルシェルとふたりで顔を見合わせる。はっきりいって自分でも相手が鏡なのかルシェルなのか見分けがつかない。
 それなのに一目で見破られるとは。

「どうしてわかるんだ、キース」
「私めが部屋に入った瞬間、ちょっと怒られるかもと思って目を泳がせたでしょう。そっちが本物、こっちはルシェル様ですかね?」
「君、魔物になれるんじゃないの?」

 ルシェルが感心した声をあげる。キースは嘆息した。

「まさかそれで今日遊ぶおつもりですか」
「楽しそうじゃないか?」
「皇帝の自覚ありますか?」
「クロード様、おはようございま――今日はルシェル様と分裂ごっこすることにしたんですか?」

 ふっと上空から姿を現したのはエレファスだ。その問いかけはこれまたクロードに向けられている。
 しかし、こちらはそう驚くことではない。エレファスは魔物にも劣らぬ魔力の持ち主だ。つまり魔物と同じで、姿形以外に魔力という本質を見る。
 が、いきなり最初からいたずらが破綻すると面白くない。

「誰かだまされてくれないか」
「せめて苦労して欲しいよねえ」
「じゃあ、護衛のふたりにしたらどうです。ほら噂をすれば」
「おはようござい――」

 そろって挨拶をしようとした護衛がふたりで固まった。エレファスは少し笑って一歩さがる。
 だが護衛のふたりも復活は早かった。

「今日はなんの遊びですか? キース様も承知のうえで?」
「承知はしてないんですが、遊んでやらないとやめないですしね……というわけであなたの落とした魔王はこっちの魔王ですか、それともあっちの魔王ですか」
「これってどっちかはルシェル様ですよね。うーん」

 やっと考えてくれる人間がきた。
 ルシェルと小さく目配せしあったクロードは、わざとらしく咳払いをして黙る。ルシェルもほんの少し口端を持ち上げるだけで黙りこんだ。

(僕の護衛だ。当てられなかったらお仕置きだな)

 わくわく待っていると、両腕をくんだウォルトが、顔をしかめた。

「なんか、そっちのはずしたら楽しいのでわくわくしてるほうがクロード様だと思うんですが」
「では、僕がクロードでいいのか?」

 平然とクロードが答える横で、ルシェルが意味深に笑う。
 待ってください、とカイルが声を上げた。

「その前に報告をさせてください。朝食にプリンが出るらしいです」
「えっ」
「そっちの喜んだのがルシェル様です」
「で、やっぱこっちがクロード様だ。プリンがどうしたって顔ですもんね。はい決まり」

 自信満々に答えたウォルトとカイルに、クロードは嘆息する。あーとルシェルも声をあげた。

「ひっかけとかずるいー今度は質問とかなしで決めさせないとなあ」
「まだやるんですか? ゼームス様はひっかからないですし、聖王様もそうでしょう。あとはオーギュスト様……」

 名前をあげたエレファスに、ウォルトが口をはさむ。

「あいつカンで当てるだろ」
「となると……他にはオベロン商会の方々ですかね」
「彼らは当たってもはずれても面白くない」
「じゃあ、セドリック様はどうです?」
「セドリック様はだめです」

 エレファスの提案をキースが一蹴した。
 なぜ、という皆の目線にキースが一拍おいて答える。

「……もしはずしたら主が悲しみのあまり殺しかねません。お命が危険です、冗談抜きで」
「そんなことは起こらない、セドリックは当てるはずだ」

 クロードは本気で言ったのだが、皆がそろいもそろって納得した顔を見せた。解せない。
 ルシェルはどうでもいいのか、小首をかしげる。自分の姿形でやられるとわりあい不気味だ。

「となるとーいきなり本命しか残らないよねぇ」
「もうそろそろお出ましのはずですが……ああ、いらっしゃいましたね」

 続き部屋を通ることを知らせる鈴の音に、クロードは顔を引き締める。これでいつものような甘い顔をするとすぐにばれてしまいかねない。

「クロード様、お支度はまだ――」

 そうして入ってきた愛しい妻は、そっくり分裂した夫を見てきょとんとした顔をした。
 その愛らしさについ腕が伸びそうになるが、ここは我慢だ。
 だが、びっくりしている顔が可愛いやら、すぐさま自分を見抜いてくれないのが悔しいやら、胸中は複雑である。

「……なにごとですの、これ」
「ハロウィンのいたずらだそうです。アイリーン様が落っことしたのは右の魔王ですか、左の魔王ですか、っていう」

 キースが左右対称、鏡合わせのように突っ立っている右のクロードと左のルシェルを指さす。
 頬に手をあてて、アイリーンは首をかしげた。

「それ、実はどれもわたくしの魔王ではありませんというオチではないの?」
「どっちかですよ」

 エレファスが請け負う。その周囲をぐるりと見て、アイリーンは顔をしかめた。

「まさか、皆はもう答えを知っているの?」
「俺達は当てたし。な、カイル」
「まあ……キース様とエレファスは知らないが」
「俺は魔力が見えるので。キース様はなんか一目で当てそうですけど」
「私めは見慣れてるのと、反応がよかっただけですよ。もう一度シャッフルされたらわからないと思いますし」
「……キース様はクロード様が百人いても当てそうですよね」

 ぼそりとアイリーンについてきていたレイチェルがつぶやく。無理ですよ、などとキースは笑っているが、信じる人間はいない。

「で、アイリちゃん。どっちだと思う~?」

 にやにやしながらウォルトが問いかける。
 そうね、と応じるアイリーンはあくまで冷静だ。

「このままふたりで仕事をしてくだされば、ふたり分はかどる……」
「アイリーン様、だめです。すねられてしまわれます」

 さすがアイリーンの侍女は優秀で、すぐさま止めにかかってくれた。
 アイリーンは、残念そうに嘆息する。

「しょうがないわね……でも、もし。もしもよ? わたくしがはずしたら大変じゃないかしら……」

 それはもう大変に決まっている、とクロードは内心で同意する。顔には出さない。
 だが、周囲の人間の顔色が変わった。
 それを見越したように、アイリーンが可愛らしく笑う。

「ということで、わたくし、本物だと思うほうにキスをしようかと思うの!」
「「「こっちです」」」

 護衛と魔道士が裏切った。
 指をさされたクロードは、静かににらむ。

「お前たちはいったい、誰の部下だ?」
「やだなあクロード様ですよ、なーカイルにエレファス」
「そうですね、危機回避能力の高さです」
「ほらほらクロード様、アイリーン様が朝のキスだそうですよ」

 ぐいぐいとクロードの背中を押し出す始末だ。ルシェルも半分呆れたように笑い、ぽんと音を立てて戻ってしまう。

「ほんと、人間は面白いなあ」
「僕は面白くない」
「はい、つかまえましたクロード様。まあ、皇帝陛下が朝からそんなお顔をなさって」

 クロードの腕をとってアイリーンがくすくす笑う。
 その笑顔は愛らしいが、口がへの字にむくれるのはしかたない。機嫌を損ねているぞ、という雰囲気を全開にしていると、アイリーンが背伸びをした。
 頬に甘い朝の口づけをされる。

「……もし皆が裏切らなかったら、どうしていたんだ?」

 素直に機嫌を戻すのは癪なので、そう尋ねる。

「同じですわ。他の方に口づけなんて、絶対にクロード様がお許しになるはずがないので」

 なるほど、では結果は同じか。
 しっかり者の妻に降参したことにしておこうと、クロードはアイリーンの頬に朝のキスを返した。



 ――ちなみに、参考までに、元魔王の妻である某御方に見破り方を聞いたところ。

「殴った手応えでわかる!!!」

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#悪ラス
2019年プライベッター初出

小説


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