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No.34
『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(2)』
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部屋から出ると、そこはもう森の古城ではなくなっていた。ジルも驚いたようで、きょろきょろ周囲を見回している。
天鵞絨の絨毯が敷かれた赤い廊下だ。壁は真っ白で、燭台もないのに明るい。だが高すぎて天井は見えず、廊下の先も距離があるため何があるかわからない。横幅は大人が四、五人並んで歩けるのがせいぜいの細長い一本道の通路である。
背後を見ると、出てきた部屋の扉がなくなっていた。
まっすぐ奥に進めということなのだろう。
「あまり離れずいこう。一応、何があるかわからない」
「はい」
頷いてジルがしっかりした歩調で歩き始める。
だが、十歳の少女だ。歩調を合わせながら、抱きあげてしまおうかと思ったが、人妻であることを思い出す。失礼だろうか。
(いや、さっきはロリコンが僕の妻を抱いていた。仕返してやってもいいのでは?)
だが、ロリコンだったら妻は対象外のはずだ。年下相手に目くじらをたてるのは大人げないのかもしれない。同じことに怒っていいジル自身も気にしていないようだ。それとも自分の前だからあえて気丈に振る舞っているのか。
妻は美人だ。こんな小さな子にとってあの女性らしい肢体も気品も美しさも憧れるものだろう。そんな女性を夫が抱いていたら不安に思うものだ。その心情を思うと胸が痛む。でも夫はロリコンだから大丈夫なのか。それでいいのだろうか? つまり妻がこのくらいの年齢だったらロリコンの反応が違うということになる。なんていびつな――いや、妻なら子どもになっても可愛い。間違いない。すさまじい忍耐力が強いられるだろうが、クロードは待つ自信がある。彼女が成長していくのを見守るのはとても楽しいだろう。そう考えるとなるほど、ロリコンとはひょっとしてドMなのか。しかも、ロリコンだったら成長したらジルを捨てるはずである。なんということだ、少なくともクロードには無理だ。なんのために成長を見守ったのか、といっそ呆れる。やっぱりロリコンはドMだ。しかし、問題は悪い大人に騙された少女の今後だ。今のうちになんとかすべきではないか。まさかこんないたいけな少女を妻にしておいて、そのような横暴が断じて許されるわけがない。
つまり問題はなんだったか。そう、妻は幼くなっても可愛い。うん、それだ。
「クロード様、わたしのうしろへ」
いつの間にか突き当たりの扉にきていた。前に出たジルに、クロードは眉をひそめる。
「あぶない」
「ですから、わたしにおまかせを。お守り致しますので」
その毅然とした態度に、護衛されることにすっかり馴染んでいたクロードはつい頷き返しそうになって我に返った。
「――何か、しかけがありますね」
「だから、君は僕のうしろに」
「大丈夫ですよ。この通路も扉も、陛下が魔力で作った空間です。陛下はわたしを危ない目にあわせたりしません」
ロリコンである限りはそうだろう。いじらしい少女の信頼にクロードは目頭を押さえたくなった。
(まあ、見たところこの少女はしっかりしてそうだが……)
「何か扉の上のほうに文字が浮かび上がってますね。陛下の魔力です。あれが扉を開く鍵でしょうか?」
「だが、字はアイリーンだな。設定が雑すぎないか?」
普通、さらった本人が書くものじゃないのか。雑すぎる状況設定である。
クロードでも首を上に持ちあげないと見えない文字を読もうとしていると、距離をとったりはねたりして読もうとしているジルに気づいた。
「君がもしよければ、抱きあげるが」
「えっでもそれではクロード様をお守りすることができませ――」
すーっと浮かび上がっていた文字がジルの目線の高さまでおりてきた。
「……」
なるほど、さわるなということか。
なぜ最初からこうしないのか。気が利くのか利かないのか、妙に腹の立つロリコンだ。
とりあえずジルに尋ねてみる。
「なんて書いてあるんだ?」
「えーっと。クロード様への質問みたいです。……今までにつきあった女性の数は?って、ありますけど……」
「……」
「…………」
しゃがんでクロードは魔力でできた文字を読む。
それからなるほど、と頷いた。
「正解しないと通れない、ということか」
「……そ、そうだと思いますが……あの、奥様が正解をご存じだということに……?」
「と見せかけて、情報を引き出そうとするやつだ」
「つまりクロード様はばれてない自信がある……」
「何か言ったか?」
いえ、と首を振った彼女はとても賢い。社会の仕組みをよくわかっている。
「妻以外いない。だからひとりだ」
微笑んで答えたクロードに、扉はうんともすんとも言わなかった。
しばしの静寂のあとで、おそるおそるジルが言う。
「開きません、ね……その……不正解……」
「僕の妻は本当に可愛い」
つぶやいたクロードは一歩前に踏み出し、魔力を爆発させた。
さすがにクロードの全力には耐えきれなかったのか、扉が魔力ごと爆散する。
「さあ、行こう」
「そうですね」
空気が読める賢い少女は驚きもせず、頷き返した。
一方その頃、その様子を見ていた悪役竜帝と悪役令嬢は。
「ハディス様! クロード様に壊されましたわよ!?」
「すごい殺気だったなあ。それにただのしかけだし、そこまで強くは作ってないから」
「大切な! 質問だったんですのよ! 考えに考えて選びに選び抜いた質問でしたの! もう一回やり直してくださいな!」
「でも、君ひとりだってちゃんと答えてたじゃないか、彼」
「そんなこと信じる女がどこにおりますの、あの顔で! ハディス様だってそう思うでしょう!?」
「顔のことはともかく、本当だと思うよ」
「えっ……え、本気で……本当にそう思います?」
「僕は世間知らずなほうだけど、彼の言ってることは本当だと思う」
「そ、そうですか……まあ、ハディス様がそうおっしゃるなら……マフィンすごくおいしいですし……」
彼の中では、という言葉を心の内でつぶやくくらいには、ハディスの中にも良識はある。
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#悪ラス
#やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その2
小説
2024/4/3
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天鵞絨の絨毯が敷かれた赤い廊下だ。壁は真っ白で、燭台もないのに明るい。だが高すぎて天井は見えず、廊下の先も距離があるため何があるかわからない。横幅は大人が四、五人並んで歩けるのがせいぜいの細長い一本道の通路である。
背後を見ると、出てきた部屋の扉がなくなっていた。
まっすぐ奥に進めということなのだろう。
「あまり離れずいこう。一応、何があるかわからない」
「はい」
頷いてジルがしっかりした歩調で歩き始める。
だが、十歳の少女だ。歩調を合わせながら、抱きあげてしまおうかと思ったが、人妻であることを思い出す。失礼だろうか。
(いや、さっきはロリコンが僕の妻を抱いていた。仕返してやってもいいのでは?)
だが、ロリコンだったら妻は対象外のはずだ。年下相手に目くじらをたてるのは大人げないのかもしれない。同じことに怒っていいジル自身も気にしていないようだ。それとも自分の前だからあえて気丈に振る舞っているのか。
妻は美人だ。こんな小さな子にとってあの女性らしい肢体も気品も美しさも憧れるものだろう。そんな女性を夫が抱いていたら不安に思うものだ。その心情を思うと胸が痛む。でも夫はロリコンだから大丈夫なのか。それでいいのだろうか? つまり妻がこのくらいの年齢だったらロリコンの反応が違うということになる。なんていびつな――いや、妻なら子どもになっても可愛い。間違いない。すさまじい忍耐力が強いられるだろうが、クロードは待つ自信がある。彼女が成長していくのを見守るのはとても楽しいだろう。そう考えるとなるほど、ロリコンとはひょっとしてドMなのか。しかも、ロリコンだったら成長したらジルを捨てるはずである。なんということだ、少なくともクロードには無理だ。なんのために成長を見守ったのか、といっそ呆れる。やっぱりロリコンはドMだ。しかし、問題は悪い大人に騙された少女の今後だ。今のうちになんとかすべきではないか。まさかこんないたいけな少女を妻にしておいて、そのような横暴が断じて許されるわけがない。
つまり問題はなんだったか。そう、妻は幼くなっても可愛い。うん、それだ。
「クロード様、わたしのうしろへ」
いつの間にか突き当たりの扉にきていた。前に出たジルに、クロードは眉をひそめる。
「あぶない」
「ですから、わたしにおまかせを。お守り致しますので」
その毅然とした態度に、護衛されることにすっかり馴染んでいたクロードはつい頷き返しそうになって我に返った。
「――何か、しかけがありますね」
「だから、君は僕のうしろに」
「大丈夫ですよ。この通路も扉も、陛下が魔力で作った空間です。陛下はわたしを危ない目にあわせたりしません」
ロリコンである限りはそうだろう。いじらしい少女の信頼にクロードは目頭を押さえたくなった。
(まあ、見たところこの少女はしっかりしてそうだが……)
「何か扉の上のほうに文字が浮かび上がってますね。陛下の魔力です。あれが扉を開く鍵でしょうか?」
「だが、字はアイリーンだな。設定が雑すぎないか?」
普通、さらった本人が書くものじゃないのか。雑すぎる状況設定である。
クロードでも首を上に持ちあげないと見えない文字を読もうとしていると、距離をとったりはねたりして読もうとしているジルに気づいた。
「君がもしよければ、抱きあげるが」
「えっでもそれではクロード様をお守りすることができませ――」
すーっと浮かび上がっていた文字がジルの目線の高さまでおりてきた。
「……」
なるほど、さわるなということか。
なぜ最初からこうしないのか。気が利くのか利かないのか、妙に腹の立つロリコンだ。
とりあえずジルに尋ねてみる。
「なんて書いてあるんだ?」
「えーっと。クロード様への質問みたいです。……今までにつきあった女性の数は?って、ありますけど……」
「……」
「…………」
しゃがんでクロードは魔力でできた文字を読む。
それからなるほど、と頷いた。
「正解しないと通れない、ということか」
「……そ、そうだと思いますが……あの、奥様が正解をご存じだということに……?」
「と見せかけて、情報を引き出そうとするやつだ」
「つまりクロード様はばれてない自信がある……」
「何か言ったか?」
いえ、と首を振った彼女はとても賢い。社会の仕組みをよくわかっている。
「妻以外いない。だからひとりだ」
微笑んで答えたクロードに、扉はうんともすんとも言わなかった。
しばしの静寂のあとで、おそるおそるジルが言う。
「開きません、ね……その……不正解……」
「僕の妻は本当に可愛い」
つぶやいたクロードは一歩前に踏み出し、魔力を爆発させた。
さすがにクロードの全力には耐えきれなかったのか、扉が魔力ごと爆散する。
「さあ、行こう」
「そうですね」
空気が読める賢い少女は驚きもせず、頷き返した。
一方その頃、その様子を見ていた悪役竜帝と悪役令嬢は。
「ハディス様! クロード様に壊されましたわよ!?」
「すごい殺気だったなあ。それにただのしかけだし、そこまで強くは作ってないから」
「大切な! 質問だったんですのよ! 考えに考えて選びに選び抜いた質問でしたの! もう一回やり直してくださいな!」
「でも、君ひとりだってちゃんと答えてたじゃないか、彼」
「そんなこと信じる女がどこにおりますの、あの顔で! ハディス様だってそう思うでしょう!?」
「顔のことはともかく、本当だと思うよ」
「えっ……え、本気で……本当にそう思います?」
「僕は世間知らずなほうだけど、彼の言ってることは本当だと思う」
「そ、そうですか……まあ、ハディス様がそうおっしゃるなら……マフィンすごくおいしいですし……」
彼の中では、という言葉を心の内でつぶやくくらいには、ハディスの中にも良識はある。
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2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
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