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No.37
『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(5)』
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あれほどのぞんだ扉がやっと開く。開扉を祝福するようなまぶしい光に、クロードは目を細めた。
やっとだ。
『白ザラメとグラニュー糖、精製度が高いのはどっち?』とか『焼き魚を作るとき塩を振るタイミングはいつ?』とかひたすら料理に関する問題が出てきたが、クロードもジルも家事能力がてんでないことが判明しただけだった。しかも途中から『調味料にはさしすせそとあるが、せはなに?』とか出てきた。さしすせそってそもそもなんだ。世界観無視しすぎじゃないのか。ラーヴェ帝国にはあるとでもいうのか、特に後半のすせそ。
とにもかくも当てずっぽうで見事にはずれ続け、脱ぎ続け、やっとたどり着いた妻の居場所では――。
「ということで、僕はあまり第二部に乗り気ではないんだ。絶対ひどい目にあう」
「そうですわねえ……大体この作者の傾向からいってヒーローはろくでもない目にしかあいませんもの。わたくしも散々、苦労させられて――あっ」
優雅にお茶をしていた誘拐犯と被害者がこちらにやっと気づいた。
「ク、クロード様! ああ、きてくださったのですね……! ハディス様、何かこう、適当にお願いします」
「あ。そうだ縄だった、それとも鎖かな。どっちがいい?」
「どっちでもいいですから早く!」
「おふたりとも! 何をしてるんですかっ……いい加減にしてください! クロード様が……っクロード様がこんな、あられもない姿になったのに!」
※地の文省略※
※お好きな姿を各自ご想像ください※
「陛下、せめてマントをクロード様に貸してさしあげてください……!」
「え、でも僕は今、悪者だぞ」
「でもクロード様、わたしが脱ぐの止めてくれたんですよ!?」
「君は脱いだら駄目に決まってるだろう!? 彼が脱ぐのとわけが違う! 彼は脱ぐ、君は脱がない、僕も脱がない!」
「ご自分をちゃっかりはずしましたね」
「だって僕の標準装備はエプロンという名前の割烹着だし」
「いいんだ……アイリーン。助けにきた」
ふらりと顔をあげたクロードに、アイリーンが頬を引きつらせた。
言うまでもないが、クロードの不機嫌度合いは天井を突き抜けている。
「僕の可愛いアイリーン。これ以上、僕の手をわずらわせたりしないな……?」
「あ、悪役の台詞になってますわよ、クロード様」
「それがどうした。僕は魔王だ」
薄く微笑んで手を伸ばしたクロードの前に、すらりとした剣がわってはいる。
ロリコン、もといハディスだ。
「それは僕を倒してからにしてもらおう。でないと話がおかしくなるじゃないか、困る」
「なるほど」
ばちっとクロードの両手に奔った魔力にジルが顔を青ざめさせる。
「ク、クロード様! 待ってください、わたしが説得しますから――陛下! クロード様はもう疲れておられます、もうやめましょう?」
「え、それだと僕に誘拐された彼女はどうなるんだ? うちに連れて帰る?」
「なんでそういう細かいところだけ真面目なんですか! 違います、もうお茶でもしたらいいじゃないですかってことで」
「……ひょっとして君は僕が魔王に負けるとでも?」
どちらかといえば格好をつけているだけだったハディスが、ふっと表情を変えた。
にこにこつかみどころのない得体の知れない笑顔が一枚だけはがれた気がして、クロードはまばたく。ふと見れば、そうっとアイリーンがその場から離れてシーツを用意していた。
「そんなことは言ってません。陛下が強いのは知っています」
「じゃあいいじゃないか。僕は君の言うことは聞かないぞ! あ、耳栓」
「させるか!!」
瞬間にジルがハディスが取ろうとした耳栓を魔力で爆発させた。
「これでわたしの声が聞こえますね、陛下」
止めに入っていたはずなのに、ジルが最初に手を出した。しかもすました顔はどちらかと言えば挑発的だ。
だがそれを見ているロリコンもとい竜帝も、目を細めて笑っている。
「君まで僕を侮ってもらっては困るな。僕には対君用の完全無欠の兵器がある」
「わたしはそう簡単にやられませんよ。陛下こそわたしを侮らないでください」
「いつまでそう言っていられるかな。この、ケーキを前に!」
ハディスが勝ち誇った顔で手のひらを前に出した。その上に、いちごがたくさんのったケーキが出てくる。
宝石のように輝くそのケーキに、ぱっとジルが顔を輝かせたあとぶんぶんと首を横に振ってから、一歩さがった。
「くっ――それは卑怯です、陛下!」
「さあ、これでも僕を倒せるというならくるといい!」
「クロード様、これを。風邪をひいてしまいますわ」
「ああ、ありがとう」
シーツをそっと肩からかけてくれたアイリーンに礼を言う頃には、クロードはすっかり飽きていた。
それを見抜いてやってくる妻に思うところがあるが「助けにきてくださってありがとうございます」とこっそり耳打ちされるとまあいいかと思ってしまうのだから、大概自分も甘い。
「クロード様、こちらにおいでになって。すごいんですのよ、ハディス様の作られたお菓子」
「ああ……やたらクイズもそれ関係だったな……」
「ジル様が食べるのが大好きなんですって」
「今ならこの特製野菜ジュースもついてくる! 果物も入っていておいしいぞ。さあ、負けを認めるんだジル!」
「卑劣なっ……あ、そうだ陛下、薬飲みましたか!?」
「あ、飲んでない」
「だめじゃないですか! そういえばだいぶ魔力使ったでしょう、また熱を出しますよ」
放っておいてもあっちはあっちで決着がつくだろう。
(あのロリコン、病弱設定までついてるのか)
それはまた苦労しそうだ。
アイリーンに新しい紅茶を注いでもらい、先にお茶会の席についたクロードは、頬杖を突く。クロードの隣の席に座ったアイリーンが、柔らかく笑った。
「お似合いですわね、あのふたり」
「そうだな。僕らほどではないがな」
「それはもちろんですわ。でも、あの方達はこれからなんでしょう。さきほどわたくしが手に入れた最新の情報によると、あちらも書籍化するんですって」
「それはまた大変だな。僕らも大変だった」
「でも、幸せになってほしいですわねえ」
それまでにひどい遭うのは彼らのほうだから、まあ多少の無礼は見逃してやろう。
そう思いながらクロードは新作ヒーローが作ったというクッキーを取った。
~終~
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#悪ラス
#やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その5(完結)
小説
2024/4/4
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やっとだ。
『白ザラメとグラニュー糖、精製度が高いのはどっち?』とか『焼き魚を作るとき塩を振るタイミングはいつ?』とかひたすら料理に関する問題が出てきたが、クロードもジルも家事能力がてんでないことが判明しただけだった。しかも途中から『調味料にはさしすせそとあるが、せはなに?』とか出てきた。さしすせそってそもそもなんだ。世界観無視しすぎじゃないのか。ラーヴェ帝国にはあるとでもいうのか、特に後半のすせそ。
とにもかくも当てずっぽうで見事にはずれ続け、脱ぎ続け、やっとたどり着いた妻の居場所では――。
「ということで、僕はあまり第二部に乗り気ではないんだ。絶対ひどい目にあう」
「そうですわねえ……大体この作者の傾向からいってヒーローはろくでもない目にしかあいませんもの。わたくしも散々、苦労させられて――あっ」
優雅にお茶をしていた誘拐犯と被害者がこちらにやっと気づいた。
「ク、クロード様! ああ、きてくださったのですね……! ハディス様、何かこう、適当にお願いします」
「あ。そうだ縄だった、それとも鎖かな。どっちがいい?」
「どっちでもいいですから早く!」
「おふたりとも! 何をしてるんですかっ……いい加減にしてください! クロード様が……っクロード様がこんな、あられもない姿になったのに!」
※地の文省略※
※お好きな姿を各自ご想像ください※
「陛下、せめてマントをクロード様に貸してさしあげてください……!」
「え、でも僕は今、悪者だぞ」
「でもクロード様、わたしが脱ぐの止めてくれたんですよ!?」
「君は脱いだら駄目に決まってるだろう!? 彼が脱ぐのとわけが違う! 彼は脱ぐ、君は脱がない、僕も脱がない!」
「ご自分をちゃっかりはずしましたね」
「だって僕の標準装備はエプロンという名前の割烹着だし」
「いいんだ……アイリーン。助けにきた」
ふらりと顔をあげたクロードに、アイリーンが頬を引きつらせた。
言うまでもないが、クロードの不機嫌度合いは天井を突き抜けている。
「僕の可愛いアイリーン。これ以上、僕の手をわずらわせたりしないな……?」
「あ、悪役の台詞になってますわよ、クロード様」
「それがどうした。僕は魔王だ」
薄く微笑んで手を伸ばしたクロードの前に、すらりとした剣がわってはいる。
ロリコン、もといハディスだ。
「それは僕を倒してからにしてもらおう。でないと話がおかしくなるじゃないか、困る」
「なるほど」
ばちっとクロードの両手に奔った魔力にジルが顔を青ざめさせる。
「ク、クロード様! 待ってください、わたしが説得しますから――陛下! クロード様はもう疲れておられます、もうやめましょう?」
「え、それだと僕に誘拐された彼女はどうなるんだ? うちに連れて帰る?」
「なんでそういう細かいところだけ真面目なんですか! 違います、もうお茶でもしたらいいじゃないですかってことで」
「……ひょっとして君は僕が魔王に負けるとでも?」
どちらかといえば格好をつけているだけだったハディスが、ふっと表情を変えた。
にこにこつかみどころのない得体の知れない笑顔が一枚だけはがれた気がして、クロードはまばたく。ふと見れば、そうっとアイリーンがその場から離れてシーツを用意していた。
「そんなことは言ってません。陛下が強いのは知っています」
「じゃあいいじゃないか。僕は君の言うことは聞かないぞ! あ、耳栓」
「させるか!!」
瞬間にジルがハディスが取ろうとした耳栓を魔力で爆発させた。
「これでわたしの声が聞こえますね、陛下」
止めに入っていたはずなのに、ジルが最初に手を出した。しかもすました顔はどちらかと言えば挑発的だ。
だがそれを見ているロリコンもとい竜帝も、目を細めて笑っている。
「君まで僕を侮ってもらっては困るな。僕には対君用の完全無欠の兵器がある」
「わたしはそう簡単にやられませんよ。陛下こそわたしを侮らないでください」
「いつまでそう言っていられるかな。この、ケーキを前に!」
ハディスが勝ち誇った顔で手のひらを前に出した。その上に、いちごがたくさんのったケーキが出てくる。
宝石のように輝くそのケーキに、ぱっとジルが顔を輝かせたあとぶんぶんと首を横に振ってから、一歩さがった。
「くっ――それは卑怯です、陛下!」
「さあ、これでも僕を倒せるというならくるといい!」
「クロード様、これを。風邪をひいてしまいますわ」
「ああ、ありがとう」
シーツをそっと肩からかけてくれたアイリーンに礼を言う頃には、クロードはすっかり飽きていた。
それを見抜いてやってくる妻に思うところがあるが「助けにきてくださってありがとうございます」とこっそり耳打ちされるとまあいいかと思ってしまうのだから、大概自分も甘い。
「クロード様、こちらにおいでになって。すごいんですのよ、ハディス様の作られたお菓子」
「ああ……やたらクイズもそれ関係だったな……」
「ジル様が食べるのが大好きなんですって」
「今ならこの特製野菜ジュースもついてくる! 果物も入っていておいしいぞ。さあ、負けを認めるんだジル!」
「卑劣なっ……あ、そうだ陛下、薬飲みましたか!?」
「あ、飲んでない」
「だめじゃないですか! そういえばだいぶ魔力使ったでしょう、また熱を出しますよ」
放っておいてもあっちはあっちで決着がつくだろう。
(あのロリコン、病弱設定までついてるのか)
それはまた苦労しそうだ。
アイリーンに新しい紅茶を注いでもらい、先にお茶会の席についたクロードは、頬杖を突く。クロードの隣の席に座ったアイリーンが、柔らかく笑った。
「お似合いですわね、あのふたり」
「そうだな。僕らほどではないがな」
「それはもちろんですわ。でも、あの方達はこれからなんでしょう。さきほどわたくしが手に入れた最新の情報によると、あちらも書籍化するんですって」
「それはまた大変だな。僕らも大変だった」
「でも、幸せになってほしいですわねえ」
それまでにひどい遭うのは彼らのほうだから、まあ多少の無礼は見逃してやろう。
そう思いながらクロードは新作ヒーローが作ったというクッキーを取った。
~終~
畳む
#悪ラス #やり竜
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「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
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