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No.47

『ポンパ巻き貝ハーフアップ梅雨の戦い・前編』



 魔王様のご機嫌に関係なく、雨が降る季節になった。
 鏡台の前に櫛を置いて、アイリーンは嘆息する。するとソファに座り、執務前の休憩、食後の珈琲を飲んでいたクロードがまばたいた。

「どうした、アイリーン。何か気鬱なことでも?」
「いえ、髪が……こう、なんていえばよろしいのか……ぼわっとしてしまうのが気になって気になって」

 レイチェルたち侍女達とも毎朝悪戦苦闘するのだが、どうしても今時期は湿気で髪が膨らみがちだ。

「結んでしまえばいいんですけれども……」

 髪先をいじりながら、アイリーンは嘆息する。立ちあがったクロードがわざわざ背後から小首を傾げて覗きこんできた。さらりと湿気も何も関係ない、艶やかな髪が目の前に流れる。

「髪型のひとつやふたつ気にせずとも、君はいつも可愛い」

 甘くささやく夫に、アイリーンは笑顔を返す。

「クロード様に言われると腹が立つので控えていただけますか」
「……手厳しいな」
「こんなつやつやの髪をなさって、そんなことをおっしゃるからです。どれだけわたくしが苦労してると思いますの」

 ぐいぐいと遠慮なくクロードの髪をひっぱると、クロードが顔をしかめた。

「わかった、配慮に欠ける発言だった」
「認められても腹が立ちますわね」
「どうしろと」
「どうもこうもありません」

 羨んだところでクロードの雨にも風にも湿気にも負けない髪が手に入るわけではない――と言おうとして、アイリーンは口をつぐむ。
 いいことを思いついた。



「……なんなんですか、我が主。その髪型」
「よくわからないが今日一日この髪型でいろと言われた」

 頭の上に巻き貝のようにねじり上げて作られた髪型が重い。ぐるぐる渦をまいた髪の間に花飾りまで散りばめられて、なんだか肩が凝る。

「髪が爆発する苦労を知れと言われた」
「なんかそれ、違いません?」
「僕もそう思うんだが、妻がご機嫌になったのでまあいいかと」

 キースが呆れて雨の降る窓の外を見る。

「今日も平和でいいですねえ」
「まったくだ」


畳む



#悪ラス
2020年Twitter初出

小説


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