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辺境伯が話題なので便乗する会。
なんといってもジルの実家サーヴェル家は辺境伯! 皆様ご存知のとおりつよつよの辺境伯です。
ただやり竜の世界観的な事情で言うと、まず国境になるラキア山脈がそうそう人の住める場所ではないし田舎なのもガチです。サーヴェル家があの調子なんで舐められがち、というかドン引きされがちなのもあります。
しかし現実の辺境伯がそうであるように、歴史ある大貴族なのも本当。二神降臨時、女神がクレイトス国内をまだまだ掌握できてなかった頃、ラキア山に住んでた蛮族サーヴェル一族は、自分たちの痩せた土地に女神が食べ物を作れるようにしてくれたからその感謝で女神軍に加わりました。その後竜退治の功績とかもあってあの辺一帯の領地と爵位をもらってます。
要はごはんだ。
ラーヴェ様はご飯が用意できたらサーヴェル家を手に入れられたかもしれない。
なお、竜はご飯に入らないんですか?と言われたらお肉にはなるけどだいぶ食べ物取り合いになるだろうしラーヴェ帝国の一員になったら竜は食べちゃだめなんじゃないかなって…(笑)

#やり竜

小ネタ

『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(5)』



 あれほどのぞんだ扉がやっと開く。開扉を祝福するようなまぶしい光に、クロードは目を細めた。
 やっとだ。
『白ザラメとグラニュー糖、精製度が高いのはどっち?』とか『焼き魚を作るとき塩を振るタイミングはいつ?』とかひたすら料理に関する問題が出てきたが、クロードもジルも家事能力がてんでないことが判明しただけだった。しかも途中から『調味料にはさしすせそとあるが、せはなに?』とか出てきた。さしすせそってそもそもなんだ。世界観無視しすぎじゃないのか。ラーヴェ帝国にはあるとでもいうのか、特に後半のすせそ。
 とにもかくも当てずっぽうで見事にはずれ続け、脱ぎ続け、やっとたどり着いた妻の居場所では――。

「ということで、僕はあまり第二部に乗り気ではないんだ。絶対ひどい目にあう」
「そうですわねえ……大体この作者の傾向からいってヒーローはろくでもない目にしかあいませんもの。わたくしも散々、苦労させられて――あっ」

 優雅にお茶をしていた誘拐犯と被害者がこちらにやっと気づいた。

「ク、クロード様! ああ、きてくださったのですね……! ハディス様、何かこう、適当にお願いします」
「あ。そうだ縄だった、それとも鎖かな。どっちがいい?」
「どっちでもいいですから早く!」
「おふたりとも! 何をしてるんですかっ……いい加減にしてください! クロード様が……っクロード様がこんな、あられもない姿になったのに!」

 ※地の文省略※
 ※お好きな姿を各自ご想像ください※

「陛下、せめてマントをクロード様に貸してさしあげてください……!」
「え、でも僕は今、悪者だぞ」
「でもクロード様、わたしが脱ぐの止めてくれたんですよ!?」
「君は脱いだら駄目に決まってるだろう!? 彼が脱ぐのとわけが違う! 彼は脱ぐ、君は脱がない、僕も脱がない!」
「ご自分をちゃっかりはずしましたね」
「だって僕の標準装備はエプロンという名前の割烹着だし」
「いいんだ……アイリーン。助けにきた」

 ふらりと顔をあげたクロードに、アイリーンが頬を引きつらせた。
 言うまでもないが、クロードの不機嫌度合いは天井を突き抜けている。

「僕の可愛いアイリーン。これ以上、僕の手をわずらわせたりしないな……?」
「あ、悪役の台詞になってますわよ、クロード様」
「それがどうした。僕は魔王だ」

 薄く微笑んで手を伸ばしたクロードの前に、すらりとした剣がわってはいる。
 ロリコン、もといハディスだ。

「それは僕を倒してからにしてもらおう。でないと話がおかしくなるじゃないか、困る」
「なるほど」

 ばちっとクロードの両手に奔った魔力にジルが顔を青ざめさせる。

「ク、クロード様! 待ってください、わたしが説得しますから――陛下! クロード様はもう疲れておられます、もうやめましょう?」
「え、それだと僕に誘拐された彼女はどうなるんだ? うちに連れて帰る?」
「なんでそういう細かいところだけ真面目なんですか! 違います、もうお茶でもしたらいいじゃないですかってことで」
「……ひょっとして君は僕が魔王に負けるとでも?」

 どちらかといえば格好をつけているだけだったハディスが、ふっと表情を変えた。
 にこにこつかみどころのない得体の知れない笑顔が一枚だけはがれた気がして、クロードはまばたく。ふと見れば、そうっとアイリーンがその場から離れてシーツを用意していた。

「そんなことは言ってません。陛下が強いのは知っています」
「じゃあいいじゃないか。僕は君の言うことは聞かないぞ! あ、耳栓」
「させるか!!」

 瞬間にジルがハディスが取ろうとした耳栓を魔力で爆発させた。

「これでわたしの声が聞こえますね、陛下」

 止めに入っていたはずなのに、ジルが最初に手を出した。しかもすました顔はどちらかと言えば挑発的だ。
 だがそれを見ているロリコンもとい竜帝も、目を細めて笑っている。

「君まで僕を侮ってもらっては困るな。僕には対君用の完全無欠の兵器がある」
「わたしはそう簡単にやられませんよ。陛下こそわたしを侮らないでください」
「いつまでそう言っていられるかな。この、ケーキを前に!」

 ハディスが勝ち誇った顔で手のひらを前に出した。その上に、いちごがたくさんのったケーキが出てくる。
 宝石のように輝くそのケーキに、ぱっとジルが顔を輝かせたあとぶんぶんと首を横に振ってから、一歩さがった。

「くっ――それは卑怯です、陛下!」
「さあ、これでも僕を倒せるというならくるといい!」
「クロード様、これを。風邪をひいてしまいますわ」
「ああ、ありがとう」

 シーツをそっと肩からかけてくれたアイリーンに礼を言う頃には、クロードはすっかり飽きていた。
 それを見抜いてやってくる妻に思うところがあるが「助けにきてくださってありがとうございます」とこっそり耳打ちされるとまあいいかと思ってしまうのだから、大概自分も甘い。

「クロード様、こちらにおいでになって。すごいんですのよ、ハディス様の作られたお菓子」
「ああ……やたらクイズもそれ関係だったな……」
「ジル様が食べるのが大好きなんですって」
「今ならこの特製野菜ジュースもついてくる! 果物も入っていておいしいぞ。さあ、負けを認めるんだジル!」
「卑劣なっ……あ、そうだ陛下、薬飲みましたか!?」
「あ、飲んでない」
「だめじゃないですか! そういえばだいぶ魔力使ったでしょう、また熱を出しますよ」

 放っておいてもあっちはあっちで決着がつくだろう。

(あのロリコン、病弱設定までついてるのか)

 それはまた苦労しそうだ。
 アイリーンに新しい紅茶を注いでもらい、先にお茶会の席についたクロードは、頬杖を突く。クロードの隣の席に座ったアイリーンが、柔らかく笑った。

「お似合いですわね、あのふたり」
「そうだな。僕らほどではないがな」
「それはもちろんですわ。でも、あの方達はこれからなんでしょう。さきほどわたくしが手に入れた最新の情報によると、あちらも書籍化するんですって」
「それはまた大変だな。僕らも大変だった」
「でも、幸せになってほしいですわねえ」

 それまでにひどい遭うのは彼らのほうだから、まあ多少の無礼は見逃してやろう。
 そう思いながらクロードは新作ヒーローが作ったというクッキーを取った。



~終~

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#悪ラス #やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その5(完結)

小説

『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(4)』



「ところでどうしてこの組み合わせなんだ?」

 廊下をてくてく歩きがてら尋ねたクロードに、ジルがああと声をあげた。

「わたしはなんとなくわかります。まず、わたしが奥様をさらうとしますよね」
「君がアイリーンをさらうのか? アイリーンが君をさらうんじゃなく?」
「わたしが、でしょう。そのほうが絵になります! 奥様、美人でしたし!」
「確かに僕の妻は美人だが……」

 そういうジルはどこからどう見ても幼く可愛い女の子である。さきほど扉を拳で叩き壊したことを考慮すると言っていることはわかるが、それでも頷いていいのか微妙なところだ。

「そうすると陛下とクロード様が力ずくでくるのでイベントになりませんよね」
「なるほど、戦力的な問題か」
「そうです。わたしとしては魔王と竜帝をいっぺんに相手にできるなんてまたとない機会、訓練をかねてぜひやってみたいですが」
「よしわかった、それは却下でいい」

 本気で襲いかかってくる幼女を想像して、すぐさま打ち消した。

「では逆に、陛下とクロード様がさらわれるとします。どっちがどっちをさらうのかわかりませんが、多分クロード様が魔王なので陛下をさらうと思うんですけど」
「まあ、そうだな」
「その場合もわたしは陛下誘拐時の訓練とみなして本気で魔王に挑むことになり」
「わかった、それも却下だ」

 二度目の本気で襲いかかってくる幼女を想像して、やっぱり打ち消した。

「他にも夫婦で組み合わせると、どちらの立場でも緊張感にかけます。となると次は今と逆、わたしがクロード様にさらわれれることになると思います。逆でもいいですが」
「いや、僕がさらうことにしよう」

 でないと三度目の本気の幼女が妻と竜帝に襲いかかることになる。竜帝はどうなってもいいが、妻が立ち向かう姿を想像するとクロードも頭が痛い。

「では、わたしがクロード様にさらわれたと想定します。それだと陛下、張り切ると思うんですよね、無駄に」
「アイリーンも無駄に張り切るだろうな……収拾がつかないわけか」
「そうなると思います。あと状況も今の組み合わせがいちばん、話が進みやすいんです」

 アイリーンがさらわれば当然クロードは助けにいく。
 ジルは馬鹿なことをしでかす夫を止めにいく。

「なるほど……だが、竜帝が僕をさらった場合はどうなるんだ」
「それは絶対にクロード様はヒロインではないというメタ的な何かで絶許だとうかがいました。それだけが唯一守ってきた砦だとか」
「そういえば僕は敵に誘拐だけはされてないな……でも竜帝はいいのか、さらわれて?」
「陛下はいつかそのうち絶対にさらわれますので、予行演習かと」
「確定なのか」
「確定です」

 力強く頷き返された。そこに迷いはない。

「そうなると、この組み合わせの場合、最後はどうなるんだ? 僕が竜帝と戦うんだろうか」
「クロード様はアイリーン様の安全を確保なさってください。陛下はわたしが止めます」

 ばきばき指が鳴る音にクロードは気づかないふりをして、ようやく見えてきた三つ目の扉を見あげる。
 また魔力で書かれた文字だ。だが今度は見知らぬ筆跡だった。

「これが最後か。今度こそまともならいいが」
「えーっと。『クイズ! 正解すれば扉は開きます』――まともですね?」
「問題もまあ、まともだ。『クッキーを作ったとき、しっかりした歯ごたえのものができるのはどっち? 1.薄力粉 2.強力粉』」
「絶対、陛下ですね出題者。クロード様、答えはわかりますか?」
「わからないな、僕は。君は?」
「申し訳ありません、わたしもちょっと……」

 いきなり困ってしまった。だが正解は二分の一である。

「とりあえずどっちか選べばいいんじゃないのか? 間違った場合はどうなるんだ」
「あ、はい。注意書きがありますね……『作者権限で正解する以外に扉を開ける方法は皆無。何度も挑戦可能。ただし不正解のたびに魔王は一枚ずつ脱ぐこと』」
「なぜそんな仕様にした!?」

 叫んだクロードに答える声は当然、ない。
 


 その頃の悪役竜帝と悪役令嬢は。

「なるほど、そちらには色んなことがあったんだな……」
「ええ、ええ、そうですの。おわかりになられる? 詳しくはこのコミックと原作書籍をお読みになって、予習なさるとよろしいわ。何かのお役に立つかもしれません」
「読ませていただこう。お礼と言ってはなんだが、こちらのほうもURL(https://ncode.syosetu.com/n6484fv/)だけでも」
「大丈夫です、わたくし存じあげておりますわ。連載追いかけてましたもの!」
「そうなのか。僕は君達が連載してるころまだ産まれてなくて……ただ君達のすごさはいやというほど知っている」
「あら、どのように?」
「作者が連載中の僕らのPVと連載が終わっている君達のPVを見比べて『ジャンル別とはいえ日間ランキングにのってるのにラスボスのほうがPVが上ってどういう……?』と頭を抱えていた」
「でも、ポイントの追い上げ方はそちらのほうがすさまじいですわ。わたくし達が5万ポイントこえた頃ってもう書籍化したあとだったと思いますわよ」

 などと、ダイマをかねたなろう分析お茶会をしながらこの状況を忘れ始めていた。

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#悪ラス #やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その4

小説

『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(3)』



 再びクロード達の行く先を阻んだ扉は、今度は上から下までぎっしり文字で埋まっていた。
 その文字列の圧におののいたジルより前に出たクロードは、文章の出だしの上のほうを見あげて尋ねる。

「あのロリコ――いや、君の夫の字か?」
「は、はい。たぶんですけど」
「……長いな。君宛のようだが」
「確かに……時間もないですし、どこかそれっぽい重要なところだけ読み上げましょう」

 そう言ったジルの目の前に、魔力の文字が並んで手紙のように折り重なっておりてきた。
 読め、ということらしい。気持ちはわかるとクロードは頷いた。

「君宛てに心をこめてしたためたんだろう。君が読むべきだ」
「えっ……この量をですか?」
「妻に宛てた手紙というものは長くなってしまうものだ。僕にも覚えがある」
「は、はあ……そうなんですね」

 ひとまず頷いたジルは今ひとつわかっていない。クロードは重ねて言い聞かせる。

「その一文字一文字に、夫の心がこもっている。読み飛ばす、無視するなどの行為は夫を深く傷つける。夫婦関係に亀裂も入るだろう。夫婦間でやり取りする文章というのは、扱いひとつで戦争をも引き起こしかねない危険な代物だ」
「そ、そこまでのものなんですか……!?」
「決して無下に扱わないように。これは僕のアドバイスだと思ってくれ」

 いささか文字もクロードに同意するようにうんうんと上下にゆれている。
 真顔のクロードに感化されたのか、ジルは表情をきりっと改めて、頷いた。

「ご忠告、ありがとうございます。では読みあげさせていただきます。――僕のお嫁さんへ。おはよう。朝にこの手紙を書いています。今朝のトーストの焼き加減はうまくいきました。卵の固さや味も、君の好みがわかってきてうまくいったと思います。トマトのソースを案外君が気に入ってくれたようなので、今度から常備しようと思います。そういえば、パンの小麦粉の配合を変えてみました。気づきましたか? スコーンも少しずつ変えているんですが、以前と今とどちらがおいしいか教えてください。そのスコーンに合うジャムも作ろうと思います。君は苺がお気に入りのようだからまずは苺のソースを。でも、パイはベリーがお気に入りなのでそちらも手が抜けません。砂糖もいくつか種類を用意して、ためしてみたいと――」
「いつまで料理の話をしてるんだ!」

 つっこみと同時に、今か今かと読むのを待たれている魔力の文字をクロードは踏みつけた。もちろん、魔力なので意味はないのだが、そのまま踏みにじる。

「妻への手紙だろう!? 違うだろう!!」
「へ、陛下は料理が好きなので……っあ、ここから違います! ここから告白なんですが、昨日はこっそり城を抜け出して町におりてみました。君の渡した花束は実はそこで手に入れたものです。花売りの子が小さな花を売っていたのを花束にしてもらって買いました。両親がいないそうです。ですがこれからの季節は花も手に入りにくくなるでしょう。心配です。早急に対策をとらねばならないと僕は決意を新たに――」
「そうじゃない。いや大事だが、そうじゃないんだ。手紙に一番必要なのは、愛の言葉だ」
「陛下は恥ずかしがり屋なのでそういうのは無理なんじゃないかと……」
「だがこれではほとんど子どもの作文だ! まさか、君はこれでいいとでも? 僕は認めないぞ」
「ま、まあそういう話じゃないっていうのは否めませんが……嬉しいですよ。陛下、わたしがきてから楽しいって。今度ピクニックに行こうって書いてくれてますし。そ、それに最後……」

 ちょっとジルが口ごもってしまったので、それらしいことが書いてあるのかとクロードは横からのぞき見る。

『君にお礼以外も、そのええと、あの、言えれば……いいんだけれど。その、君がす……す……だって! 男らしく言えるように、頑張ります。僕を引き続き何卒よろしくお願いします』
「……無理しなくてもいいのに、陛下」

 照れ隠しのように頬を染めているジルは嬉しそうだが、クロードは納得いかない。

(僕はアイリーンにこんなふうに喜ばれたことがないのに、なぜこんな手紙で……!?)

 妻や愛しい婚約者に宛てる手紙とはこのようなものではないはずだ。クロードの矜持にかけて認めることはできない――とまで考えて、ふとにこにこしているジルの姿を改めて見た。
 子どもだ。
 だから、愛の言葉を綴った手紙がどれほど嬉しいものかわからないのだ。
 そういうことにしよう。
 意外とあっさり立ち直ったクロードは、気を取り直す。

「それで、結局、今回の問題はなんだ? 読めば自動で扉があくのか?」
「あ、待ってください。まだ追伸がここにあります」
「なになに。『僕を好きだと心をこめて言ってくれれば扉はあきます』」

 告白の強制か、悪くない。
 だがジルが嘆息と同時に立ち上がり、右拳をものすごい魔力ごと叩きつけた。
 何が起こったかわからず呆然とするクロードの前で、ばらばらと扉の欠片と魔力がはがれ落ちていく。

「一日三回までって約束です、陛下」

 ぱんぱんと両手を払い、ジルが腰に手をあてて虚空を見あげた。

「しつこくすると、ベッドの間に境界線作りますからね!」

 返事はない。しんとしたこの空気こそが返事のように。
 平然とした顔で奥へ歩き出したジルに、クロードも続く。ほんの少し、聞いてみた。

「一緒に寝ているのか、毎晩」
「警備や護衛が足りていないので。帝都に戻ればまた変わるかもしれませんが」
「……そうか」

 さっきの言い方やこの態度から察するに、主導権は少女にあるのだろう。何もやましいものは感じられない。
 ちゃんと大人の男性らしく、なんだかんだ保護者に徹しているようである。なかなかやるなあのロリコン、と思った。
 子どもっぽいだけかもしれないが。




 一方その頃、お茶を飲んでいる悪役竜帝と悪役令嬢は。

「ジル様、噂には聞いてましたがお強いのね。完全にクロード様がうしろからついてきて守られるポジションになってますわ」
「ベッドに境界線って、どういう意味なんだ……?」
「ああ、枕とかクッションとか使って真ん中に壁を作るんですわよ。わたくしもたまにやります」
「それ、意味あるのか?」
「え? あ、ありますわよ、心理的に。クロード様だってそういうときは一応、配慮してくださいますわ」
「一応?」
「い、一応です」
「それ、意味が」
「あります!」
「ふぅん、そういうものか。まあいい。しつこくしなければ一生ベッドに境界線を作らなくていいってことだ。詰めが甘いな、僕のお嫁さんってば」

 言質をとったと言わんばかりの無邪気で残酷な笑顔を見なかったことにして、アイリーンは紅茶を飲んだ。

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#悪ラス #やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その3

小説

『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(2)』



 部屋から出ると、そこはもう森の古城ではなくなっていた。ジルも驚いたようで、きょろきょろ周囲を見回している。
 天鵞絨の絨毯が敷かれた赤い廊下だ。壁は真っ白で、燭台もないのに明るい。だが高すぎて天井は見えず、廊下の先も距離があるため何があるかわからない。横幅は大人が四、五人並んで歩けるのがせいぜいの細長い一本道の通路である。
 背後を見ると、出てきた部屋の扉がなくなっていた。
 まっすぐ奥に進めということなのだろう。

「あまり離れずいこう。一応、何があるかわからない」
「はい」

 頷いてジルがしっかりした歩調で歩き始める。
 だが、十歳の少女だ。歩調を合わせながら、抱きあげてしまおうかと思ったが、人妻であることを思い出す。失礼だろうか。

(いや、さっきはロリコンが僕の妻を抱いていた。仕返してやってもいいのでは?)

 だが、ロリコンだったら妻は対象外のはずだ。年下相手に目くじらをたてるのは大人げないのかもしれない。同じことに怒っていいジル自身も気にしていないようだ。それとも自分の前だからあえて気丈に振る舞っているのか。
 妻は美人だ。こんな小さな子にとってあの女性らしい肢体も気品も美しさも憧れるものだろう。そんな女性を夫が抱いていたら不安に思うものだ。その心情を思うと胸が痛む。でも夫はロリコンだから大丈夫なのか。それでいいのだろうか? つまり妻がこのくらいの年齢だったらロリコンの反応が違うということになる。なんていびつな――いや、妻なら子どもになっても可愛い。間違いない。すさまじい忍耐力が強いられるだろうが、クロードは待つ自信がある。彼女が成長していくのを見守るのはとても楽しいだろう。そう考えるとなるほど、ロリコンとはひょっとしてドMなのか。しかも、ロリコンだったら成長したらジルを捨てるはずである。なんということだ、少なくともクロードには無理だ。なんのために成長を見守ったのか、といっそ呆れる。やっぱりロリコンはドMだ。しかし、問題は悪い大人に騙された少女の今後だ。今のうちになんとかすべきではないか。まさかこんないたいけな少女を妻にしておいて、そのような横暴が断じて許されるわけがない。
 つまり問題はなんだったか。そう、妻は幼くなっても可愛い。うん、それだ。

「クロード様、わたしのうしろへ」

 いつの間にか突き当たりの扉にきていた。前に出たジルに、クロードは眉をひそめる。

「あぶない」
「ですから、わたしにおまかせを。お守り致しますので」

 その毅然とした態度に、護衛されることにすっかり馴染んでいたクロードはつい頷き返しそうになって我に返った。

「――何か、しかけがありますね」
「だから、君は僕のうしろに」
「大丈夫ですよ。この通路も扉も、陛下が魔力で作った空間です。陛下はわたしを危ない目にあわせたりしません」

 ロリコンである限りはそうだろう。いじらしい少女の信頼にクロードは目頭を押さえたくなった。

(まあ、見たところこの少女はしっかりしてそうだが……)

「何か扉の上のほうに文字が浮かび上がってますね。陛下の魔力です。あれが扉を開く鍵でしょうか?」
「だが、字はアイリーンだな。設定が雑すぎないか?」

 普通、さらった本人が書くものじゃないのか。雑すぎる状況設定である。
 クロードでも首を上に持ちあげないと見えない文字を読もうとしていると、距離をとったりはねたりして読もうとしているジルに気づいた。

「君がもしよければ、抱きあげるが」
「えっでもそれではクロード様をお守りすることができませ――」

 すーっと浮かび上がっていた文字がジルの目線の高さまでおりてきた。

「……」

 なるほど、さわるなということか。
 なぜ最初からこうしないのか。気が利くのか利かないのか、妙に腹の立つロリコンだ。
 とりあえずジルに尋ねてみる。

「なんて書いてあるんだ?」
「えーっと。クロード様への質問みたいです。……今までにつきあった女性の数は?って、ありますけど……」
「……」
「…………」

 しゃがんでクロードは魔力でできた文字を読む。
 それからなるほど、と頷いた。

「正解しないと通れない、ということか」
「……そ、そうだと思いますが……あの、奥様が正解をご存じだということに……?」
「と見せかけて、情報を引き出そうとするやつだ」
「つまりクロード様はばれてない自信がある……」
「何か言ったか?」

 いえ、と首を振った彼女はとても賢い。社会の仕組みをよくわかっている。

「妻以外いない。だからひとりだ」

 微笑んで答えたクロードに、扉はうんともすんとも言わなかった。
 しばしの静寂のあとで、おそるおそるジルが言う。

「開きません、ね……その……不正解……」
「僕の妻は本当に可愛い」

 つぶやいたクロードは一歩前に踏み出し、魔力を爆発させた。
 さすがにクロードの全力には耐えきれなかったのか、扉が魔力ごと爆散する。

「さあ、行こう」
「そうですね」

 空気が読める賢い少女は驚きもせず、頷き返した。 




 一方その頃、その様子を見ていた悪役竜帝と悪役令嬢は。

「ハディス様! クロード様に壊されましたわよ!?」
「すごい殺気だったなあ。それにただのしかけだし、そこまで強くは作ってないから」
「大切な! 質問だったんですのよ! 考えに考えて選びに選び抜いた質問でしたの! もう一回やり直してくださいな!」
「でも、君ひとりだってちゃんと答えてたじゃないか、彼」
「そんなこと信じる女がどこにおりますの、あの顔で! ハディス様だってそう思うでしょう!?」
「顔のことはともかく、本当だと思うよ」
「えっ……え、本気で……本当にそう思います?」
「僕は世間知らずなほうだけど、彼の言ってることは本当だと思う」
「そ、そうですか……まあ、ハディス様がそうおっしゃるなら……マフィンすごくおいしいですし……」

 彼の中では、という言葉を心の内でつぶやくくらいには、ハディスの中にも良識はある。

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#悪ラス #やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その2

小説

『悪役令嬢なので竜帝陛下が誘拐中(1)』



「お初にお目にかかります、クロード・ジャンヌ・エルメイア皇帝陛下。ジル・サーヴェルと申します!」

 かつ、と軍靴を踵で鳴らして綺麗な敬礼を見せた少女に、クロードはぱちくりと目をまばたいた。
 そのあとで、ああと本日の訪問客のリストを見る。
 そして名前と訪問理由だけを確認して、少女に目を向けた。

「話には聞いている、ジル嬢。新作の主人公との年末年始特別クロスオーバーイベントだとか」
「そのようにわたしも聞いております。クロード様のご活躍はかねがね耳にしておりましたので、ご一緒できるなんて光栄です」

 ぴしっと背筋を伸ばしたままよどみなく答える少女に、クロードは滅多に動かさない眉をひそめた。

「不躾なことを言うが、本当に十歳なんだな」
「はい、そうです」
「……その、既に十九歳のヒーローと結婚したとか小耳にはさんだのだが、妻から」
「すでに情報収集をなさっているのですね。さすがです」

 つまりロリコ――と口にしかけたクロードは、十歳の少女を前で口にしていい言葉ではないと判断した。
 執務机の前にある応接ソファに腰かけるようすすめると、ジルが失礼しますと言い置いて、クロードの真向かいの席に腰をおろした。礼儀正しい少女である。
 ふかふかのソファに沈むかと思いきや、きっちり姿勢を保ったままでいた。素晴らしい体幹だ。

「ところで、ロリコ――いや、君の夫はどこに?」
「それが、何やら用事があるとかで、あとからくると。わたしだけ先に行っているように言われました」
「そうか。僕も妻から遅れると言付けがあって……ああ、そうだ。君がきたらこれを一緒に見るようにと言われていた」

 懐から封書を取り出す。
 妻とこの少女は初対面のはずだが、何やら女性同士で会う前に伝えておきたいことでもあるのかもしれない。
 ペーパーナイフと一緒に渡すと、礼儀正しい少女は、礼を述べてから封を切り、クロードにも見えるよう折り目を伸ばして間のテーブルに置いた。

『「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました&やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」クロスオーバー交流企画(長い)
お前の妻は預かった。返して欲しければ三つの扉を突破して助けにこい!』

「いくらなんでも雑すぎる」
「はーっはっはっは!」

 思わずつっこんだクロードの声にかぶさるようにして、空中から笑い声が響く。
 顔をあげて、ジルが叫んだ。

「陛下!? な、何してるんですか他人様のうちで!」
「魔王! お前の妻は僕が預かった! 返して欲しければ何か難問を突破してどうにかするんだな!」
「きゃークロード様、わたくしとしたことが捕まってしまいました! 助けてくださいませ!」

 棒読みでなんか声をあげているのは他でもないクロードの妻・アイリーンである。
 何がなんだかわからないが、とりあえず自分以外の男が妻の腰を抱いているのはいただけない。妻を自分の腕の中に転移させようとした瞬間、ばちっと音がして弾かれた。
 眉をひそめたクロードに、ふっと妻をさらおうとしているらしい男が笑う。年下だろう、笑みにまだ子供っぽさが残っている。

「そんなものがこの竜帝たるハディス・テオス・ラーヴェにきくわけないだろう! そこで指をくわえて眺めて――」
「陛下!」

 ずいっと進み出たジルに、男が目を向ける。

「ジル……」
「何をしてるんですか、お茶をするって準備してませんでした!?」
「何を言っているのだかわからないな」
「なんですかその悪役の台詞は! いいからおりてきてください! そちらのご令嬢はクロード様の奥方様では?」
「なぜなら僕は耳栓をしているからだ!」

 しんとその場が凍り付いた――というよりは、白けた。
 だが自信満々で男は続ける。

「君に離婚だの嫌いになるだの言われたら僕は心臓がとまる……だから僕は考えた! 君に軽率に心臓をとめられない方法を、編みだしたんだ……!」
「……それ以外のことにその頭のよさを使ってもらいたかったです、陛下……」
「つまり何を言っているかわからない! でも君は僕のお嫁さんだからな! 悪いことをする僕をちゃんと止めにこないとだめだぞ!」
「そうですわよ! クロード様もわたくしを助けにきてくださいませ!」

 よくわからない宣言と、ぱあんとクラッカーを鳴らすような派手な音と紙吹雪は、まさか演出だろうか。
 あとはしんとした部屋に、げんなりした顔のジルともはや表情をなくしたクロードが取り残される。

「すみません……うちの、陛下が……」
「いや、うちの妻もだ。すまない。というか企画は作者だろう? 最初は僕と彼の書き分けができているか不安で習作を書いていたらいつのまにか増えに増え、こうなったとか」
「そうみたいですね。陛下とクロード様、全然違うのに」

 今、ひょっとしてのろけられたのか。
 凝視するクロードの前で、ひたすら落ち着き払ったジルが確認する。

「いかなきゃいけないんですよね、おそらく」
「……そうだろうな」

 無視したら面倒だろう。意外と真面目なふたりは同じ結論を出して、同時にため息を吐いた。



 その頃、悪役竜帝と悪役令嬢といえば――

「さあっおふたりがくるまでに準備に取りかかりましょう! これは作者からのミッションです!」
「わかっている。まずはそうだな、サンドイッチにスコーン、サラダもバランス的には欲しい……」
「何を用意するつもりなんですのハディス様!?」
「何って、歓迎会の用意だろう?」
「違います! わたくしは囚われのお姫様なんですのよ、こう、鎖とかなんか色々つけて怪しい雰囲気にしてくださいませ!」
「いやでも、ジルがおなかをすかせるかもしれないし」
「う。そ、そうですわね……十歳の女の子ですものね……クロード様、ちゃんと守ってくださるかしら」
「大丈夫だ、ジルはしっかりしてるし。とりあえず君も座ったらどうかな。作り置きのマフィンがあるよ」
「まあ……そ、そうですわね。お茶をいただきながらゆっくり作戦を立てましょう」

 ――などと、お茶を飲み始めていた。

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#悪ラス #やり竜
2019年プライベッター初出
「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」×「やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中」
年末年始特別クロスオーバーSS その1

小説

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今こそこのてがろぐの使い時、個人サイトを作った価値を再確認するとき!?(嬉しそう)

本日のお仕事は年表の精査です。
年表、2024verとかファイル名についてるのがおかしいと常々思っている。

#やり竜

制作メモ

実は本日、ジルの誕生日です(コミックス1巻初版限定特典参照)
アニメではまだ10歳、原作ではもう12歳、ネタバレになりますがコミカライズ最新話では11歳と、今年は見事にばらけましたね~!
陛下は当日、お祝いしたいと待ち構えてるはずですが実は

11歳の誕生日は陛下捕縛中。
12歳の誕生日は先帝喪中。

でっかい誕生日ケーキも部下の給与も払われない状況では作れると思えないし、喪中もさすがにねえ……。
という有り様で一度もまともに本編でお祝いされてないんですが、13歳の誕生日は三度目の正直か一度あることは二度あるのか(遠い目)
まあこっそりふたりでお祝いしてるんじゃないですか。
12歳の誕生日は祝★竜妃爆誕会をできない陛下が泣きわめいて不謹慎発言しまくりそうなので、今日一日ジルと一緒にいていいから表に出るな黙ってろ!!とふたりでハディスの宮殿に監禁され、陛下のお部屋で「今年こそ巨大ケーキを作る予定だったのに」とかぐちぐち言いながら精一杯大きく作った陛下のお手製ケーキをふたりであーんしてると思います。

#やり竜

小ネタ

おわっっっったぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!
いや全然終わってないけど、何ひとつとして終わってないけど、終わった、終わりました、終わったんですよ!!
いっそもう本当に終わっていいんじゃないかな!?ってくらい終わった。
連載が始まるのは見直してからなのでまだもう少しかかりますがひょっとして本編は一年ぶりの連載ですかね……?
久しぶりにログインしたらなろうのUIが様変わりしててて戸惑ってますが、頑張ります。


やっべえこの先マジで書ききる(処理できる)自信ないんですけど、これがあれか、竜騎士団とかいちまんの兵とかぶん投げられた柚先生が「プラスウルトラの気持ちで描いてる」って仰ってるときの気持ちなのかしら…などと思いながら天井を眺めてます。
畳む


#やり竜 #進捗

制作メモ

7部、あとエピローグだけのところで、今、息切れしており…なんなの息止めて書いてたの私?
エピローグ残ってんのにもう力尽きてる…書くのは明日だけどもう燃え尽きてそう…。
あとこういう風にぶっちぎって書いたものは私の経験上、あとから見返すと修正しまくらないと使えないろくでもない出来である場合が多く(ばたり)

いやーでもアドレナリンどばどばで書くのは気持ちいいです。
たまにしか起こらないけど。ものすっっっごい疲れるけど。

ずーーーっとずっと仕込んでたネタがやっと書けました。何年越しだ?
ここまで書かせてもらえたことに感謝します。


#やり竜
#進捗

制作メモ


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